"Compile" Diary
2020年9月29日
Compile(編纂)は、記憶や時間の扱いに焦点をあてた一枚です。
わたしは本のなかでも小説はあまり読まないのですが、時折思い出したように読みたくなることがあります。そして読んでいるうちは、現実の時間の流れを忘れて、物語の中に没頭しています。同じように、音楽や映画も、その世界観や時間に身を委ねられるので、大切にしたい存在です。そしてそこで想像したり感じたりしたものは、現実世界をいきる自分のその後にも少なからず影響をもたらすことがあります。物語と、実体験とが編み込まれる過程で、いまのわたしという人格がいるのだと感じます。
この絵では、そのようにして物語と実体験のフィールドで、さまざまに情報が蓄積される脳内で、数限りない記憶が飛び交っている感覚を表したいと思いました。本の中で無数の渡り鳥たちが飛翔する光景は、記憶の欠片が自分の中で絶えず移ろい、運ばれていく感覚に近いものとして描いています。また折にふれて記憶を遡り、回想するさまを、小人たちがページとページの狭間に佇んでいる姿にも映し出しています。
当初鳥たちの飛翔だけを描いていましたが、どうもしっくりこない印象がありました。いくつか案を練っているうちに、冒頭で述べた本をめぐる体験が思い出され、それをひとつのモチーフとしてCGとドローイングを掛け合わせた絵へと繋がっていきました。
CGとドローイングのように、一見別々に存在し得るものを掛け合わせることで違った世界が開けていくことを、以前描いたコラージュ "Light Rocks" でも感じていましたが、今回の "Compile" で、その感覚が確信へと変わりました。赴きの異なる媒体や表現形態をミックスするスタイルは、今後も取り組んでいきたいテーマでもあり、その絵のストーリーにふさわしい組み合わせを探っていきたいと感じた経験でした。
text by Atsushigraph