「ひと」と「わたし」と「なりわい」のグラデーション
RECOVERY STORIES #3
2024年10月3日
個展『Recovery(リカバリー)』3日目が終了しました。水・木曜日は基本的にご来場が少ないのが普通ですが、正午頃と午後3時をピークにさまざまな方にご来場いただけました。
会場である「ござ九」さんのネームバリューかもしれません。
お越しくださったみなさま、ありがとうございました。
ご来場された方が揃って訊かれるのが、ジークレー版画という技法について。いまでこそデパートや百貨店のギャラリーでも「ジクレー」の名で取り扱われることもあり、すこしずつ認知されていますが、それでもまだメジャーな技法ではないようで、珍しそうにご覧になられています。
「インクジェットプリントの超高精細・光発色版です」と話すと、みなさん納得しておられます。なまえに版画とつくのに版を用いないという手法が不思議に感じられる方もいるようで、歴史の浅いこの技法がのちの伝統技法のひとつに仲間入りする未来を願いたくなります。
お客さまとの会話の中で、仕事、とりわけキャリア形成についてお話しをいただくこともありました。ある方は、
「これで食べていくのなら、国内や海外の大きな公募展なんかに挑戦してみないと名前が広がっていかないかもしれませんよね。」
という王道のキャリアパスの重要性を述べられた上で、
「企業とのタイアップも模索してみては」と商業的な方面でのアイデアを投げかけてくださったりもしました。
過去の事例のひとつとして、公募展の事務局を経由して協賛企業さまと繋がり、協賛企業の役員室に作品がレンタルされたことがあるとお話しすると、
「それはいいですね。そういうのがもっと増えるといいですよね」
と寄り添ったおことばをくださいました。
不安定で未知数なこの活動に、生業という意識と覚悟を固めたのはコロナ前の2019年です。疾患の影響で入退院を繰り返してきた私にとって、定職につくのは難しく、福祉作業所での仕事にもやりがいを見いだすのが難しくもありました。そんな中、作家活動だけが苦楽や登り下りを繰り返しながらもいちばん長く続いてきた活動でした。
そしてコロナ禍を迎え、じぶんのいのちが簡単に吹き飛ぶような出来事が唐突にやってくるのだと感じてから、好きなことをやりたいようにやる努力をして生きていく想いをつよくしたのです。
人生100年時代とはいうものの、じぶんの一生もそのぐらい生きられるという保証はないわけで、その時々で快いと思える営為を行っていきたいと思います。今を生きやすくするその積み重ねが、未来の後悔を取り除いてくれるのではないかと。そして、ひとり黙々とつくり続けた先に、今のお客さまとの交流があるのだと感じ、いつまでつづくかわからない不安とありがたさがないまぜになった感情を、会期中ずっと受け取っています。今日は特にその感情がつよいです。
うれしいんだか、かなしいんだか。「ひと」と「わたし」と「なりわい」が、グラデーションのように繋がりながら、行ったり来たりしています。
個展は明日、4日目へとつづきます。
Atsushigraph 秋の版画展『Recovery』
期間 : 2024年10月1日(火)〜 14日(月・祝)
※6日(日)はお休み。
時間 : 8:30〜17:30
場所 : ござ九・森九商店
岩手県盛岡市紺屋町1-31
TEL : 019-622-7129